イマドキの若者が求める成長の勲章

2021.09.14

いくつもの肩書を持つ世代

「実は、こんなこともやってまして…」。初めて会う若者と名刺交換する際、本業の名刺を渡されたあと、他の企業や団体のロゴが入った名刺を渡してくれるケースが増えています。コロナ禍で、対面で会う機会は減ったものの、逆に会う若者は必ずといっていいほど、何枚も何枚も名刺を持っているような印象です。

Z世代に代表されるいまの若者は、生活基盤をボーダレスなオンライン空間においています。“開放されたバーチャル空間”の中で、年上も年下もなく、経営者でも会社員でも、国籍が違っても、個と個でつながっていきます。だからなんの躊躇もなく、ごく自然な感覚で広く多くのコミュニティに出入りできる。その結果として、いくつもの組織に所属し、何枚もの名刺を持つことになるんでしょう。

会社という“閉じられた垣根”や、役職という“タテの関係性”ありきで働くのではなく、なんらかの目的があって集まった人たちでイノベーションを生んだり、ソリューションを開発していく。そんな“プロジェクト”のように柔軟で機動的な働き方がしっくりくる世代なのです。



1社に所属するだけでは不安

コロナ禍も、この流れに拍車をかけています。筆者が主宰するツナグ働き方研究所では、Z世代を対象に「コロナ禍を経験したうえでのキャリア観」についての調査を行いました。「自身のキャリアを考えた際、どんな働き方をしたいか」という質問に対して、いちばん多かったのが安定派(安定した1社でずっと働きたい)41.1%。景況が不安定な時代は、働き手に保守的な志向が高まります。よく“すぐ辞める”と言われるZ世代であっても、「安定」を希求するのは至極ごもっともです。

一方で驚いたのは、副業派(1社をコアとしながら、空き時間に副業をして収入を安定化させたい)と複業派(1社にしがみつくのは不安だから、複数の会社で働きたい)を合わせたスコアが37.6%に上ったこと。転職派を大きく上回り、安定派に迫るスコアとなっていました。終身雇用が崩壊し年金などの社会システムも揺らぐなかで、若者は、複数の組織に所属しながら兼業していくほうがリスクが小さいと考えはじめている。そんな機運の高まりが浮き彫りになっています。



成長に対する強迫観念

会社に依存できない以上、若者は自身のスキルアップによって未来を切り開くしかない。いまの若者にとって「成長」とは、もはや強迫観念に近いキーワードです。

ひと昔前なら、自分が成長していくうえで手本になる存在は社内にいました。ところがいまや、オンラインで横に横につながっていくほうが、成長するための刺激となる存在に出会うことができます。ますます会社には期待できない。そうなってくると彼らにとって、職場や会社という枠組みは、大きな意味を持たなくなってきます。

彼らが多くのコミュニティに出入りする意味をもう一段深掘りすると、単なる好奇心や興味だけではなく、不透明な時代をサバイブしていくための処世術であることが分かります。

だからこそ、彼らは様々な出会いを通じて“デキる人”と絡んでいくことに極めて貪欲なのです。その絡みから、さらに様々なコミュニティや様々なグループに絡み、もっとデキる人に、もっとデキる人にと絡んでいきます。



マスカラス・シンドローム

成長したい一心で、それまで接点のなかった人たちとSNSでの交流を通じて仲良くなっていく。いろんな人とボーダレスに関わっていくことで、知恵や技術を出し合ってコラボレーションする。そこで成果が出た時、「一緒にやらない?」「仲間になってよ?」と、嬉しいオファーを受けることになる。

つまり2枚目の名刺には、SNS上を駆使した“わらしべ長者的成長戦略”の勲章といった意味あいもあるのです。だとすれば、複数枚の名刺を渡してくれる時の彼らの表情が一様にやや自慢気なのも、なんとなく納得できます。

出世して肩書の位を上げるより、たくさんの肩書を持っていることがステイタスとなる時代。その昔、ミル・マスカラスというメキシコ出身のプロレスラーがいました。試合ごとにマスクを変えることから「千の顔を持つ男」と呼ばれ人気を博していました。マスカラス・シンドローム。そんなネーミングがふと頭をよぎりました。そんな肩書は欲しくないか(苦笑)。