【多様な働き方を研究するコラム】顔バレしないが、バイト選びの条件になった訳
顔隠し投稿の流行
最近のインスタグラムでは、自分のファッションを堂々と見せながら、自分の顔を隠す投稿が流行っているそうです。顔を手で覆う、自分のケータイを顔に重ねる、画像にモザイクやマスキングをして隠す。確かにインスタグラムを覗いてみると、様々なやり方で顔を隠しながら投稿する若者の姿があふれています。
そもそもSNSへの“映える投稿”というものは、(本人が意識しているかどうかは別としても)自分の承認欲求を満たすための行動のはずです。そんなどこの誰だか判別がつかない投稿で自意識を満足させられるのか。そんな素朴な疑問が芽生えますが、こうした投稿でも友達には分かるらしいのです。なるほど。若者たちは友達に認知してもらうことで、しっかり承認欲求は満たされているわけです。
しかし、“顔隠し投稿”が流行る背景には、実は深刻な問題もあります。いわゆる「顔バレ」や「身バレ」のリスクです。そういった文脈で考えると、本意としては “自分の知人友人に分かってもらえばいい”のではなく、“知人友人にだけしか伝えたくない”というのが正しい理解なんでしょう。
顔バレ身バレは、もはや生存リスク
顔バレや身バレとは、ご存じのように、晒していなかった身元や身分が明らかになってしまうこと。近年、SNS上で個人情報が特定され、それが事件にまで発展したという事例も散見されるようになってきました。ツイッターやインスタグラムに投稿された写真に少しだけ写り込んだ背景から、居住地や現在地が絞り込まれたり、部屋の間取りから物件情報を探し出されたり。
投稿する際には、写り込んでいれば自宅の近くであることがわかるような場所には気を配らないといけない。そんなことが当たり前になってきたご時世です。すっかり生活の一部となってきたSNSへの投稿は、ある意味で大きなリスクを伴うコミュニケーションになってきてしまいました。
そうなると、そこまでリスクを負ってまで投稿しなきゃいいんじゃないか、とも思います。しかしながらZ世代をはじめとした今の若者は、ソーシャルネイティブと呼ばれる人たちです。物心ついた時からSNSとともに育ってきています。というかSNSがない世の中を知りません。彼らにとっては、言ってみれば「NO投稿NOライフ」なのです。だから結果として、自分たちのSNS投稿スキルを進化させることで危険を回避するという道しかないのです。
顔バレしないバイトが人気
そんな“顔バレしたくない意識”は、一般的な生活にも波及していました。例えば、身近なアルバイトのシーンにおいても“顔バレしない職種”が人気とのこと。
確かに高校生の場合、学校の校則によってはアルバイトが禁止されている場合が少なくないので、学校にバレないでバイトしようとなると、接客職種ではないほうが選ばれやすくはなります。また高校生じゃないにしても、パン工場の製造ラインなど黙々と働ける環境を好む層も一定数はいました。
しかし、バイトで顔バレしたくないという意識は、明らかに以前より一般化している気がします。結局、これもSNSが関わっているんです。その情報拡散の影響力というか、例えば「A子ちゃん、あのお店でバイトしてたよ」などという情報が、投稿によって晒されやすくなっているのです。
A子ちゃんがバイトしている「あのお店」がオシャレなカフェなんかであれば、問題はありません。しかし「A子ちゃん、あのお店でバイトしてたよ」の後に「A子ちゃんにしては、ちょっと意外…」というような揶揄的なコメントやバイト先の写真なんかが投稿されていたらどうでしょう。
SNSという相互監視のムラ社会に生きるソーシャルネイティブの思考回路的には、オンライン上での自分のイメージに敏感です。たかがアルバイトと思うかもしれませんが、もし知られたくないようなお店でバイトしていた場合、A子ちゃんは「自分のブランドだだ下がりじゃん…」と激凹みするはず。やや大げさなに聞こえるかもしれませんが、いま顔バレしないバイトが流行るのは、ソーシャルネイティブ世代の自己防衛術なんだと思うわけです。
長らくアルバイト求人メディアの編集長を務めていた筆者ですが、「顔バレしない」という条件がバイト選びの重要なポイントになるなんて、考えもつきませんでした。いやはや、求人サイトで「顔バレしないバイト」の特集が組まれる時代なんだもんなぁ…。